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世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大し、本邦でも全国的に緊急事態宣言が出されるなか、令和2年4月に私は喜田聡先生(現・東京大学大学院農学生命科学研究科教授)の後任として東京農業大学生命科学部バイオサイエンス学科の新任教授として赴任いたしました。当大学も緊急事態宣言に従いほとんどの研究活動がストップしており、かつ赴任してまだ2週間ほどしかたっておりませんが、筆を執らせて頂きます。
東京農業大学は明治24年(1891年)に育英黌農業科が徳川育英会を母体として榎本武揚によって設置されたのが始まりです。その後、大正14年(1925年)に大学令により東京農業大学となり、昭和21年(1946年)に現在の世田谷キャンパスに移転しました。平成10年(1998年)に農学部を農学部、応用生物科学部、地域環境科学部、国際食料情報学部に改組し、平成29年(2017年)には生命科学部が世田谷キャンパスに設置されました。現在、生命、食料、環境、健康、エネルギー、地域再生を扱う大学として、一学年におよそ3,000名の学生が在籍しています。そのなかで、私が所属する生命科学部バイオサイエンス学科は動物のみならず植物や微生物を対象とし様々な研究を実施しています。
私は東京大学農学部農芸化学科の出身で、学部および大学院修士課程時は高木正道教授(当時)のご指導のもと、酵母の形態制御に関する研究に携わりました。その後、大学院博士課程では東京大学医科学研究所制癌研究部(その後、癌細胞シグナル分野と改称)の山本雅教授(現、沖縄科学技術大学院大学教授)のご指導のもと、脳の高次機能制御のメカニズム解析を題材に分子細胞生物学を学びました。当時の山本研はラボ全体でタンパク質のリン酸化を扱う研究を実施しており、私はNMDA型グルタミン酸受容体のチロシンリン酸化の意義についてマウス個体レベルの解析を推進しました。山本研では助教まで務めさせていただき、dendriteやspineといった神経細胞の特徴的な形態形成に興味を持ち、それらを制御するメカニズムに関する研究を推進しました。また神経細胞の形態形成異常と精神疾患との関連性に興味を持ち、精神疾患の分子病態研究も少しずつ開始した時期でもあります。その後、山本先生のご退官に伴い、東京大学大学院医学系研究科神経生理学教室(狩野方伸教授)に2年間お邪魔いたしました。この間、引き続き精神疾患の分子病態研究を推進するとともに、4ヶ月ほど慶應義塾大学医学部生理学教室(岡野栄之教授)にほぼ毎日通いiPS細胞関連技術をご教示頂きました。その後、大阪大学大学院薬学研究科神経薬理学分野(橋本均教授)に2年間、同大学院歯学研究科薬理学教室(田熊一敞教授)に4年間在籍させていただきまして、iPS細胞関連技術を用いた精神疾患の分子病態研究を推進し、現在に至っております。特任助手、特任助教、特任講師、特任准教授を経験するなど、短期間にコロコロと所属先を変えて参りましたが、常に上司、ラボメンバー、数多くの共同研究者の先生方(誌面の都合上、割愛させていただきます)に恵まれて楽しく研究して参りました。ここ数年、私たちが推進しているのは患者iPS細胞および対応するヒト型疾患モデルマウスを用いた精神疾患の分子病態解析です。これまで統合失調症の多発家系患者や治療応答性が異なる一卵性双生児患者といった臨床情報を持っている患者からiPS細胞を独自に樹立し解析してきました。また、精神疾患に対するオッズ比がきわめて高い3q29欠失変異や自閉症と強く関連することが示唆されているPOGZ遺伝子上のde novo変異などに注目し、当該変異を持つ患者iPS細胞と同時に対応するヒト型疾患モデルマウスを作出し解析してきましたが、精神疾患の分子病態は複雑で難解であると実感しています。今後、さらに分子病態の解明に直結すると考えられる遺伝子変異の包括的な解析をしていきたいと思っていますが、特にiPS細胞由来の脳オルガノイドを用いた解析を推進しており、さらに新たな基盤技術を開発し実際の脳に近い組織を用いた解析をしていきたいと考えています。また、疾患解析のみならず、脳・神経系の発達や記憶・感情などの脳機能制御の分子メカニズムを分子生物学、分子遺伝学、行動薬理学、イメージングおよびiPS細胞関連技術などの手法を用いて解析していきたいと考えています。
現在、私どもの研究室には私のほかに助教の三浦大樹先生と福島穂高先生が在籍しています。また、多数の学生さんも在籍しており、楽しくパワフルに研究を推進していきたいと決意を新たにしています(研究活動の自粛に伴い、研究室の集合写真がなく残念です)。タイミング良く、今年の4月から研究室が新棟に移転いたしましたので、まさに心機一転頑張っていきたいと思っています。まだまだ始まったばかりの研究室ですが、現在、一緒に研究をおこなっていただけるポスドク研究員や技術員を募集しています。興味のある方はお気軽に中澤(tn207427@nodai.ac.jp)までご連絡ください。
最後になりましたが、この度の執筆の機会を頂きました出版・広報委員会委員長の竹林浩秀先生をはじめ関係の先生方にこの場をお借りしてお礼を申し上げます。また、神経化学会の先生方には今後ともご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
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