神経化学 Bulletin of the Japanese Society for Neurochemistry

ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
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Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 59(1): 11-13 (2020)
doi:10.11481/topics121

研究室紹介研究室紹介

長崎県立大学大学院人間健康科学研究科細胞生化学講座

発行日:2020年6月30日Published: June 30, 2020
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会員の皆様、こんにちは。4月1日より長崎県立大学大学院人間健康科学研究科細胞生化学講座の教授に着任しました。前任地の群馬大学大学院医学系研究科分子細胞生物学講座(石崎泰樹教授)からは、はるか遠くへの引っ越しのため、機器の引っ越し費用が驚くほど高く、目玉が飛び出しそうでした。また、国立大医学部から県立大の小さなラボへと環境が激変しましたが、今後も頑張って神経化学研究を推進していきたいと思います。本学は5学部9学科から構成されており、佐世保(本部)と長崎(私の職場)の2キャンパスから成り立っています。私の教育担当は生化学関連全般です(幸いにも、群馬大学時代と同じです)。学部教育では、管理栄養士を育てることが求められます。彼らの国家試験、生化学は必須科目であり、これが医学部時代との大きな違いです。また、県立大学であるために、「世界で羽ばたく人材」というより「地元・長崎を愛し、地元で活躍する人材」の育成が学部教育として求められる点も、これまで仕事をしてきた国立大学における環境と大きく異なります。一方で、大学院教育では、アカデミア・企業で活躍する「世界で羽ばたく人材」養成が求められるため、学部生と大学院生とで大胆に頭を切り替えて教育をする必要があります。

私は北九州市門司区の出身です。常に関門海峡を見て、海遊びをして育ちました。このため、前任地・群馬大時代、海なし県での暮らしは大きなストレスでした。2か月に1回くらいのペースで、どうしても海が見たくなり、新鮮なお魚が食べたくなった時には、新潟県の柏崎まで2時間車を走らせて、夕飯の魚を釣り上げに行き、ストレス発散をしていました。新任地は長崎県の西彼杵郡長与町にあります。住所だけ見ると、とてつもなく辺鄙な場所のように思えますが、長崎中心部から車で15分、長崎市との境目上に位置しており、とても便利な場所です。また、程よい住宅・人口密度な上に、自宅からも教授室からも大村湾を臨むことが出来ます(写真)。釣りがしたい場合は、車で5分出かけるだけで波静かな大村湾で夕飯のおかずをゲット可能になりました。私の人生最大の目標は、「魚がうまい場所に住み、海が見える家に住む」でしたので、それを達成することが出来ました。

皆さんのイメージ通り、九州はどこでもお魚が美味しいですが、長崎はその中でもピカイチです。あの広大な北海道は海岸線の長さが4,377 km(もちろん全国1位)に対して、面積がとても小さな長崎県の海岸線の長さは4,137 kmと全国2位なのです。北海道との差は僅かです。また、我が県を囲む海は、玄界灘、東シナ海、有明海、大村湾と性質が全く異なるため、獲れる魚の種類が日本一です。長崎に暮らし始めてから今まで美味しい魚を食べない日はありません。日々、幸福を感じています。

長崎は原爆投下を受けた不幸な歴史を持っています。実は、1945年8月9日、米軍の原爆投下の第1標的は北九州市小倉でした。私の実家からは4 kmくらいの距離しかありません。ところが、米軍のB29爆撃機が小倉に飛来したときに小倉上空はどんよりと曇っており、原爆投下後の状況観察が難しかったために、第2標的である長崎へと投下目標が変更されました。そして、長崎の平和記念像付近で爆裂したのです。もしも、小倉が晴れており、第1標的小倉に原爆が投下されていれば、私の父はその時に焼け死んでおり、私が生を受けることはありませんでした。幼少時から、8月9日が来るたびにこの話を聞いて育った私は、長崎に住むことが決定した際に運命的なものを感じました。そして、世界中の研究者と共同研究し、APSNやISNといった国際学会にも参加できる「現在の平和な時代」に感謝するとともに、長崎が負った運命も世界に発信していかねばと感じています。

執筆している現在、政府から新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が出され、全国民が苦難の中にあります。この文章をご覧になっている多くの先生方は、授業開始延期、遠隔講義の導入でドタバタの最中かと推察します。私もその一人です。着任と同時に、授業開始の延期が決定し、その後は日々、どう対策するのかを協議する会議の嵐です。幸いにも、群馬大から本学への機器搬入は済ませることが出来ました(4月17日)が、その後、緊急事態宣言に伴う休学・入校禁止措置が取られたため、在宅勤務を余儀なくされております。このため、研究室の中には、運び込んだ機器と段ボールがそのままに積まれた状態で時間が止まっています。まだ一向に研究をスタート出来る状態ではありません。現在は卒論生も大学院生もいませんが、7月に3-4名の卒論生が第1回柴崎ラボのメンバーとして配属されます。本学では3年生の前期に卒論生が配属となるので、1年半一緒に研究することになりますが、新型コロナウイルスの動向次第では今後も研究活動が出来ないかもしれません。生命科学を研究するものとして、世界を巻き込んだこの厄介な感染症の問題を看過出来ません。全世界一丸となって科学技術を結集し、正常な世界を取り戻す必要があります。

私は助教時代を過ごした生理学研究所(富永真琴教授)時代に、実験対象としてTRPチャネルに出会いました。また、その時期に恒温動物において脳の温度が常に一定に保たれることの生理学的意義に興味を持ち、現在に至るまでその追及を研究テーマとしています。恒温動物では、貴重なエネルギーを費やしてまで常に均一な脳内温度を保ちます。この一定の温度環境が神経活動に影響を与えていると考えても矛盾しないと思われます。例えば、雪山で遭難し、体温が30°C以下になった低体温状況下でも、脳内温度は死の直前まで37°Cに保たれることが知られています。この現象は、脳内温度が神経活動に重要な役割を持っているため、死が迫っていても懸命に維持されることを強く示唆していると考えました。最近行った個体実験からTRPV4(34°C以上で活性化)が脳内温度を常に感知し、この温度情報を化学信号・電気信号に変換し、脳活動の円滑化に貢献していることを証明しました。また、1細胞内の温度分布を可視化し、解析する手法を開発しました。そして、細胞代謝・温度・神経活動の機能連関を調べています。TRPV4はニューロンのみならず、グリア細胞にも発現しています。特にアストロサイトでは30%の限られた亜種にのみTRPV4が発現し、グリオトランスミッター放出を調節することでニューロン機能を変化させることを見出しています。これらの点に着目し、グリアバイオロジーの視点からも脳機能研究を展開中です。

本学に着任後、英語の講座名は自由に変えて良いとのことでした。大学院時代の恩師である池中一裕先生の神経化学会発展への熱い思いを継承し、また群馬大時代の上司・石崎泰樹先生の本学会での活躍も頭に思い浮かべつつ、英語講座名はDivision of Neurochemistryとしました。上述しましたように、脳内温度・アストロサイトに着目しながら、神経化学的視点で「脳内温度」に関連したユニークな研究業績を発信していきたいと思います。日本神経化学会の皆様、今後ともご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。

最後に、この執筆の機会を与えて下さいました出版・広報委員長の竹林浩秀先生と関係者の皆様に感謝申し上げます。そして、新型コロナウイルスの1日も早い収束を願います。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 59(1): 11-13 (2020)

教授室の窓からの景色。小高い山々の向こうに大村湾を臨む。

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