ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 59(1): 14-16 (2020)
doi:10.11481/topics122

研究室紹介研究室紹介

広島大学大学院医系科学研究科 解剖学及び発生生物学

発行日:2020年6月30日Published: June 30, 2020
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まずはじめに、神経化学会の諸先生方にご挨拶を申し上げます。医学部医学科・解剖学及び発生生物学の教授として2018年4月に広島大学大学院医系科学研究科(着任時は医歯薬保健学研究科)に着任いたしました池上浩司と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、まずは広島大学について紹介したいと思います。…と書き始めて、今では国立大学の中で最多タイの12学部を擁する総合大学となった広島大学の複雑な沿革の全てを説明するのは困難であることに気付きました。したがって、その詳細は大学のウェブサイト(https://www.hiroshima-u.ac.jp/about/about/history)に譲ることとし、最終的に9個の前身学校が集合して1949年に設立された創立71周年の大学であるという紹介のみで説明を終わりたいと思います(広島大学に関係する神経化学会員の先生方、失礼をお赦しください)。

一方、私が勤める医学部については少し詳しく説明させていただきたいと思います。広島大学医学部は終戦直前に設立された広島県立医学専門学校がルーツであり、今年でちょうど75周年ということになります。しかし、実際には開校して間もなく原子爆弾によって灰塵と化してしまい、県立医学専門学校としての活動の記録はほとんど残っていません。従って終戦後の1948年に開学した広島県立医科大学が実質的な起源とも言え、実際に私が主宰する解剖学及び発生生物学教室(旧解剖学第一教室)も1948年からの歴史しか残っておりません。その後、1952年に改組によって新設の広島医科大学となり、翌1953年に上述のとおり先に設立されていた広島大学に併合される形で広島大学医学部となりました。

解剖学及び発生生物学教室(旧解剖学第一教室)は,1948年に着任された初代教授から数えて私が5代目の教授のようです。講座開設70周年の年に教室を引き継いだこともあり、非常に大きなプレッシャーを感じたのを2年経った今でもよく覚えています。教室はその名前が示すとおり、医学科の基礎教育科目の一つである人体解剖学と発生学の教育を担当しています。広島大学医学部では2つの解剖学教室が人体の構造に関する教育を担っており、神経解剖学は講義も実習(脳解剖実習)も隣の神経生物学教室(旧解剖学第二教室)が担当しています。つまり、私自身は中枢神経系の教育にはほとんど携わっていません。しかし、人体解剖では脊髄や脊髄神経、脳神経も扱うため、特に末梢神経系の教育には密に関わっており、末梢神経の講義も担当させてもらっています。

教室の構成員は、教授1名、助教3名、技術職員1名、技術補助員1名と、スタッフのみで6名在籍しており、比較的恵まれた体制かもしれません。学生については、2020年4月現在で、博士課程大学院生2名、医学科学部生8名(うち5名が研究室配属実習中、残り3名が有志)、研究生1名と、総勢で11名在籍しています。大学院生の少なさは医学部解剖学教室共通の問題ではありますが、私自身は8名の学部生の中から、現在『絶滅危惧種』にも近いと言われている基礎医学研究者になる医学生が育ってくれることを願いながら、学部生の研究指導に特に力を入れています。

さて、自己紹介と併せて私と神経化学会との関わりを少し書かせていただきたいと思います。私は北海道大学理学部生物科学科で神経細胞死を研究していた小池達郎教授のもとで、学部4年時の卒業研究、修士課程、博士課程と6年間に渡って研究のいろはを鍛えてもらいました。小池教授がメインに活動されていた学会が神経化学会ということで、私が最初に入会した学会も神経化学会であり、神経化学会は私にとって会員歴の最も長い学会ということになります。そして、不思議な縁ではありますが、当時の広島大学医学部第三内科(現脳神経内科学)の中村重信先生が大会長を務められた1999年の第42回神経化学会大会は、私にとって人生初の学会口頭発表を経験した学会大会であり、それまでの人生で経験したことのない緊張の15分間を今でもよく覚えています。広島大学医学部に着任した後、教授会や医学部同窓会など多くの場で就任の挨拶をしましたが、そのたびにこの『ご縁』を話させていただきました。

1998年4月に北海道大学の小池研の扉を叩いてから22年、私の研究も大きく変遷してきました。当初は交感神経系の上頚神経節細胞を使って神経細胞死に関する研究を行っていましたが、その後、同じ細胞を用いてワーラー変性をモデルにして神経突起変性のメカニズムに関する研究に移っていきました。学位取得後、2004年4月より東京都町田市にあった三菱化学生命科学研究所(通称、L研)の研究員(特別研究員、後に副主任研究員)として、その後14年間に渡って研究者としての生き方を教わることになる瀬藤光利先生の研究室に加わりました。L研在籍時には、神経細胞、特に神経突起において微小管を構成するチューブリンが受けるユニークな翻訳後修飾(ポリグルタミン酸化polyglutamylation)を対象に、その酵素の同定、ポリグルタミン酸化修飾の神経細胞内分布、修飾の意義(神経突起内輸送の維持に寄与)などを明らかにしてきました。その後、瀬藤先生の浜松医科大学解剖学教授就任に伴って私も2008年8月に浜松医科大学に移り、引き続きチューブリン翻訳後修飾の研究を行ってきました。現福井大学教授の小西慶幸先生の栄転後、2011年8月より後任の准教授として浜松医科大学の神経解剖学講義を担当しながら、ポリグルタミン酸化修飾を外す脱修飾酵素の同定、脱修飾酵素の欠損によって起こる小脳プルキンエ細胞の変性、新たなチューブリン翻訳後修飾(Δ3化)の発見同定、アルツハイマー病におけるチューブリン翻訳後修飾の異常など、神経化学的研究を継続してきました。

2018年4月に広島大学に移り研究室を主宰するようになってからも、神経化学領域の研究を研究室の3本柱の一つとして継続しており、中枢神経系におけるチューブリン翻訳後修飾の分布、新規チューブリン翻訳後修飾の神経化学的意義などを医学科4年生の研究室配属実習(理学部などで行われている卒業研究実習の短縮版です)のテーマにしています。また、研究室のメインテーマの一つとして、血球系や一部の細胞を除いて神経細胞やグリア細胞も含めた多くの細胞種に生えている『一次繊毛primary cilia』と呼ばれる細胞外に突き出た『アンテナ構造』と、細胞から細胞外に放出される小胞である『細胞外小胞extracellular vesicles』との関係を探究していますが、「解剖学」という身体の全てを対象にできる学問分野および教室名という利点を活かし、それらを神経化学研究に融合させたテーマも展開しています。まだ全容解明には程遠い神経組織における一次繊毛および細胞外小胞の形態機能学的研究、更にそれらと歴代の教授が続けてきたニワトリ胚を用いた発生学・発生生物学研究とを融合させたテーマなどがそれに当たります。遠くない日に神経化学会において、それらの研究成果を発表できることを願っています。

以上のように、ある意味節操なく神経系も含めて分子から個体までを対象に、ゲノム編集も含めた分子生物学、生化学などの基本的手法を利用しながら、特にイメージングを主として研究を展開しております。会員歴20年を超えた神経化学会員として学会を更に盛り上げられるように精進していく所存ですので、今後どもご指導ご鞭撻の程どうぞよろしくお願い申し上げます。最後になりましたが、このような執筆機会を与えてくださった出版・広報委員長の竹林浩秀先生および委員の先生方にお礼を申し上げます。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 59(1): 14-16 (2020)

写真 着任した助教の歓迎会にて(2019年7月撮影)二列目中央が筆者

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