吉田慶多朗君を偲んで
千葉大学大学院医学研究院薬理学
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2020年6月12日、慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室(田中謙二ラボ)のメンバーである吉田慶多朗君が突然の病に倒れ、29歳という若さで亡くなりました。あまりにも突然の出来事だったので、知らせを受けたときは呆然となりました。通夜に参列した際、祭壇にはたくさんの供花が飾られており、慶多朗君の人徳が感じられ、改めて大切な人を失ってしまったんだなと実感しました。
私と慶多朗君の出会いは日本神経化学会の若手育成セミナーでした。同じグループの受講生同士で、彼はまだ修士1年だったと記憶しています。慶多朗君の第一印象は、「一見おとなしそうですが、話し掛けるとニコニコしながら話してくれる優しそうな子」でした。その後、セミナー以外でも交流する機会が多くあり、特に印象的だったのは田中謙二先生のお酒にまつわる武勇伝をとても楽しそうに話す姿であり、お二人はとても良い師弟関係であることが伝わってきました。
私は2018年日本神経化学会の「若手育成セミナー出身者によるシンポジウム」のオーガナイザーから、若手研究者を紹介してほしいと頼まれたことがありました。その時、セミナーの常連で日本学術振興会特別研究員(DC2)でもあった慶多朗君が真っ先に頭に浮かびました。私は慶多朗君と一緒に実験をしたことはありませんが、彼と同じラボの人から「慶多朗君は結果が出にくい動物実験をひたすらやっていて、すごい頑張ってるんだよ」と聞いたことがありました。田中謙二先生の熱いご指導の下、地道に頑張っている彼ならきっと素晴らしい研究成果を出してくるはず。そんな彼の存在が若手育成セミナーの受講生にとっての目標になるだろうと考え、慶多朗君を推薦しました。そのシンポジウムでは彼は最年少でしたが、先輩方にも引けを取らずに堂々と発表している姿がとても印象に残っています。そんな粘り強さを持つ慶多朗君は2019年、マウスを用いた実験で、目標を達成するまで粘り強く行動を続けるためには腹側海馬の活動低下が必須であること、また、その活動低下はセロトニン神経の活動増加が引き起こすことを明らかにし、この論文は「Nature Neuroscience」に掲載されました。この研究成果は高く評価され、神経化学会奨励賞を20代で受賞し、2020年日本学術振興会育志賞も受賞するという快挙を成し遂げました。知り合ってからずいぶん経ちますが、ここ1、2年の彼の快進撃は目を見張るものがありました。そして慶多朗君が亡くなってから18日後の6月30日、慶多朗君が筆頭著者である新しい論文が「Cell Reports」に掲載されました。こんなにも将来有望な研究仲間を失ってしまったのかと、さらに悲しみがこみ上げてきました。仕事では素晴らしい業績を出し、プライベートでは一児の父である慶多朗君が日本神経化学会に与えた影響はとても大きいものです。私はこの慶多朗君の軌跡を次世代に伝えていきたいと思っています。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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