神経化学 Bulletin of the Japanese Society for Neurochemistry

ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
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Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 60(1): 17-18 (2021)
doi:10.11481/topics150

研究室紹介研究室紹介

順天堂大学 医学部精神医学講座

発行日:2021年6月30日Published: June 30, 2021
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順天堂大学精神医学講座は、6つの附属病院(本院、越谷病院、江東高齢者医療センター、浦安病院、練馬病院、静岡病院)にメンタルクリニック科を持ち、教授7名、先任准教授2名、准教授7名を含むスタッフ48名を擁する、日本最大級の精神医学講座である。

本講座は、1950年(昭和25年)に、後に学校法人順天堂第四代理事長(第七代堂主)を務められた懸田克躬主任教授により開講された。第二代飯塚禮二主任教授、第三代井上令一主任教授、第四代新井平伊主任教授を経て、2020年4月に、第五代主任教授として加藤忠史が着任した。脳波と精神分析がご専門であった懸田教授、脳波がご専門の井上令一教授、認知症がご専門の飯塚教授・新井教授という、順天堂大学精神医学講座の伝統に、加藤の着任により、気分障害の生物学的な研究という新たな要素が加わることとなった。また、2020年9月には、気分障害分子病態学講座が設立され、双極性障害の生物学的研究の拠点として、連携しながら研究を進めることとなった。

本講座には、前述の通り多くのスタッフがおり、様々な研究が行われている。双極性障害の生物学的研究に関しては、理化学研究所から着任した窪田(坂下)美恵特任准教授、西岡将基准教授(いずれも気分障害分子病態学講座・精神医学講座併任)が中心となり、双極性障害患者死後脳における視床室傍部の解析、双極性障害の創薬開発、双極性障害患者のゲノム解析などの研究を進めている。

越谷病院鈴木利人教授と本院伊藤賢伸准教授のグループは、周産期精神医学の研究を進めている。伊藤准教授は、AMEDの研究費を得て、自閉症の全エクソーム解析で見出されたデノボ変異の解析結果と多数の薬剤による遺伝子発現変化のデータベースとの比較から得られた候補化合物について、治療薬としての開発研究も進めている。また、脳神経内科と連携して、深部脳刺激(DBS)による精神科的副作用の研究なども行われている。

越谷病院では、馬場元教授を中心とした気分障害のバイオマーカー研究、前嶋仁准教授を中心としたクロザピン反応性のバイオマーカーを探索する研究、西紋昌平准教授を中心とした睡眠研究などが進められている。

江東高齢者医療センターでは、柴田展人教授を中心に、認知症に関する臨床研究が進められている。

練馬病院では、八田耕太郎教授を中心としたオレキシン阻害薬によるせん妄の予防などの臨床試験や、臼井千恵先任准教授による痛みの神経科学的研究などが進められている。

また、静岡病院の桐野衛二教授を中心として、拡散強調MRIや脳波による統合失調症や双極性障害の研究が進められている。

ここに記した以外にも、多くの研究プロジェクトが進行しており、新たなメンバーも着任し、今後更に新しい領域にも研究が広がっていくと期待している。

加藤のライフワークである双極性障害の生物学的研究については、理化学研究所における20年の研究から、双極性障害の候補脳部位として、視床室傍核が見出されたことから、この部位が本当に双極性障害の原因であるかどうかを、死後脳を用いて明らかにするプロジェクトを進めている。視床室傍核は、マウスではよく研究され、セロトニン神経からの強い投射があり、セロトニンとノルアドレナリンを多く含む部位であること、ネガティブ情動に関わる扁桃体とポジティブ情動に関わる側坐核の両方にcollateralを送っていることなどが判明し、情動の制御において中心的な働きをしている可能性が考えられ、ここ数年、注目されている。

筆者は、マウスの研究だけでは、どうしてもモデルの域を脱することができないことから、研究の場を理化学研究所という基礎研究の場から、順天堂大学という臨床研究の場に移し、双極性障害の原因脳部位の同定という目標に向けて取り組んでいる。しかし、ヒト視床室傍核については、これまでほとんど研究されていない、未踏の領域である。まずはマウスでシングルセルRNAシーケンスを用いて、視床室傍核に存在するセルタイプを詳細に解明すると共に、各セルタイプの神経連絡を明らかにし、次にヒト視床室傍核において、シングルセルRNAシーケンスや3D-トランスクリプトーム・イメージング法を用いて、視床室傍核の解剖学的位置を明らかにし、さらには双極性障害における変化を検討していく予定である。

患者における視床室傍核病態が明らかになれば、これをMRIやPETを用いて可視化することで、脳病態に根ざした診断法につながると考えている。

また、理化学研究所では、(双極性障害患者とその両親の)トリオ家系のゲノム解析を行い、シナプスやCa2+チャネルなどに関わる遺伝子群に変異が多いことを明らかにしてきたが、その臨床的意義を追求することは難しかった。今後は、こうした遺伝子に変異を持つ患者の臨床特徴、脳画像所見、薬物反応性、身体合併症などを詳細に検討し、現行の診断基準に囚われず、特定の生物学的基盤を持つ精神疾患を見出し、特徴づけていくという、ジェノタイプファーストアプローチを手がかりに、精神疾患の生物学的な分類へと進めて行くことが重要になっていくと考えている。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 60(1): 17-18 (2021)

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