神経化学 Bulletin of the Japanese Society for Neurochemistry

ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
〒160-0016 東京都新宿区信濃町35番地 国際医学情報センター内 c/o International Medical Information Center, Shinanomachi 35, Shinjuku-ku, Tokyo 160-0016, Japan
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 60(1): 26-30 (2021)
doi:10.11481/topics153

海外留学先から海外留学先から

米国University of California San Diegoより

Department of Pathology, School of Medicine, University of California San Diego

発行日:2021年6月30日Published: June 30, 2021
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はじめに

私には「病気で困っている人を助けたい」という小さい頃からの夢があって、それは今でも変わりません。振り返れば夢の叶え方には色々あったと思いますが、薬学という道を選んで富山大学に入り、研究の奥深さに魅了され、現在海外で研究を続けています。本稿では、これまでの海外留学に至るまでの道のり、所属大学の紹介、留学生活等についてお伝え出来ればと思っています。本稿が、これから海外留学を目指される先生方、また一人でも多くの若手研究者の方の参考になれば幸いです。

海外留学までの道のり

私は学部生の頃から「海外留学」という言葉に対して漠然と憧れを抱いていましたが、渡米1年前まで具体的なビジョンは全くありませんでした。そんな私が、どのようにして博士課程取得後すぐに渡米し、5年以上米国で研究することに至ったのか、思い返せば存在していた人生のターニングポイントをいくつか記したいと思います。

まず、一つ目のターニングポイントは、大学院から所属研究室を変更したことです。学部4年次には、構造生物学研究室に所属し、卒業研究では神経変性疾患に関与するタンパク質の相互作用を構造生物学的に解析する研究に従事させていただきました。その後修士課程からは冨山大学和漢医薬学総合研究所・神経機能学分野の東田千尋教授のご指導の下、また、久保山友晴助教(現:第一薬科大学 准教授)にご教鞭いただき、伝統薬物由来の新規成分を用いた神経突起伸展作用メカニズムの解明およびその脊髄損傷マウスの運動機能改善作用について検討を行いました。大学院から研究室を移動したことで、実験の原理をより理解できるようになり、和漢薬および伝統医薬における知識を増やすことが出来ました。また、大学院在籍中には、研究を進める上で必要なin vitroからin vivoまで幅広い手技を身につけることができ、さらに研究結果を発表するプレゼン力も少しずつ強化できていったと思います。

二つ目のターニングポイントは、学内セミナーにて佐藤亜希子先生の講演を拝聴する機会があったことです。佐藤先生は、富山大学和漢医薬学総合研究所を御卒業後、当時米国ワシントン大学にて老化の研究をされていた新進気鋭の若手研究者で、現在は国立研究開発法人国立長寿医療研究センタージェロサイエンス研究センター統合生理学研究部で研究をされてます。佐藤先生のご講演は、研究内容だけでなくプレゼンが秀逸で、心から感銘を受けたことを今でも覚えています。それは今まで海外留学に対して何となく憧れを持っていた気持ちが、本気で海外で研究してみたいという意思に変わった瞬間でした。

三つ目のターニングポイントは、大学院在学中に神経化学会も含め数々の学会で発表する機会をいただいたことです。特に2015年に参加したSfN学会(Society for Neuroscience)では、将来の海外留学先になるMarsala研究室の存在を知ることができました。当時、学会会場で知り合ったMarsalaラボに在籍されていた研究者の方を介して、間接的にMarsala教授に自己紹介をさせていただく機会があり、後日改めてメールでMarsala教授に連絡させていただきました。数か月後、学会でMarsala教授が日本に来られるタイミングで面接をしていただき、大学院卒業後の受け入れを承諾していただきました。

そして、四つ目のターニングポイントは、上原記念財団ポスドクフェローシップが採用されたことです。フェローシップ等は海外留学を実現するために非常に重要で、経済サポートが少しでもあることが、海外留学実現への第一歩になるといっても過言ではありません。海外留学を目指す先生方にもぜひ積極的にアプライすることをお勧めします。

Sanford Consortium for Regenerative Medicine, University of California San Diegoの研究環境

University of California San Diego(UCSD)は10校からなるカリフォルニア大学システムの一つで、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴ市郊外のラホヤに位置する州立の総合大学です。近隣にサンディエゴ州立大学、サンディエゴ大学に加えて、Scripps institute、Salk Institute、Sanford Burnham Prebys Medical Discovery Institute(SBP)等の研究所、さらに製薬会社、ベンチャーー企業が数多く存在する、サイエンスイノベーションの目覚ましい地域です。また、UCSDは大規模研究型大学で世界トップクラスの大学群としても高く評価され、数々のランキングで必ず上位に入る大学です。

私が所属しているSanford Consortium for Regenerative Medicine(SCRM)は、2011年に建てられた、幹細胞研究を推進することをミッションとした研究施設です。施設内にはLa Jolla Institute for Immunology、Salk Institute、SBP、 Scripps Institute、 UCSDの研究ラボがあり、多くの幹細胞研究のSpecialistが在籍しています。非常にコラボレーションがしやすい環境で、また、実験に必要な器具や機械はほぼ備わった研究機関です。さらに、再生医学分野における次世代の学際的科学者を育成することを目的としたトレーニングやプログラムが充実しており、CIRM(California Institute for Regenerative Medicine)のインターンシップやUCSDのカリキュラムを通して学生が幹細胞を利用した研究に携わることができます。

Marsala研究室

私が2016年から2019年に留学したMasala研究室はSCRMの最上階(4階)に位置しており、外廊下から見える夕景色はとても綺麗です(写真1)。教授およびラボメンバーは皆とても話しやすく、一度教授の家でのホームパーティーに招待してもらう機会もありました。ポスドク4名、大学院生2名、シニア研究者1名、ラボマネジャー1名の研究室から構成され、アメリカでは一般的な規模の研究室です。

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写真1 SCRMから見える夕景色

Marsala教授は出張等で常にお忙しかったので定期的なラボミーティングはなく、メールおよび個人面談で研究の進捗状況を報告し、Discussionする、という形式で研究を進めました。私の実施した研究内容は主に2つあり、1つ目はGrowth factor(MNTS1)のSubpial(軟膜下)輸送を介した脊髄損傷治療効果の検討、2つ目は、臨床試験を目指したヒトiPSC細胞由来神経前駆細胞の凍結保存前後における細胞分化能の検討、です。Marsala研究室との契約はもともと3年間だったのですがさらに半年間契約を延長してもらい、最終的に研究内容を第一著者として二本の論文にまとめました(現在査読中)。その後、将来的にグリーンカード(永住権)を申請する可能性を考慮し、1年以上の契約更新が可能であり、かつ幹細胞を用いた神経再生による神経変性疾患モデルを用いた治療効果の検討、あるいはそれに類似した実験が可能である研究室に異動しようと決心しました。またグリーンカードの申請時に手続きが複雑になることをなるべく避ける為、同大学にあるいくつかのラボにアプライし、Department of Pathology, Division of neuropathology, Hevner教授からオファーをいただき2019年9月に異動することになりました。

Hevner研究室

Hevner研究室は2018年に米国ワシントン大学/Seattle Children’s Research InstituteからUCSDに移動してきた研究室で、現在はラボマネージャー1名、大学院生1名、研究員1名から構成されるラボです。Hevner研究室は、神経発達症/神経発達障害群におけるTbr1, Tbr2, Autsタンパク質の分子メカニズムの解明およびそれらの分子発現制御下における神経新生と脳発達への影響について研究しているラボです。Hevnerラボでは、これまで共同研究で貢献していた“幹細胞を用いたアルツハイマー病の研究”を一つのラボの研究プロジェクトとして立ち上げることになり、私はそのプロジェクト担当として採用していただきました。Hevner研究室での私の具体的な研究課題は、iPS細胞を用いたEntorhinal Cortical Neuron(嗅内皮質ニューロン)への分化および細胞移植によるアルツハイマー病モデルマウスを用いた記憶改善作業の検討で、in vitroの実験はSCRMで行い、細胞移植およびモデル動物を用いたin vivoの実験は行動観察実験の装置がさらに充実しているUCSD内のメインキャンパスにある別の動物実験施設で行っています。また、幹細胞を用いたオルガノイドの研究の専門家であるAlysson Muotri教授、Entorhinal Cortex(嗅内皮質)損傷モデル及びその神経再生の検討について見識のあるMark H. Tuszynski教授、幹細胞を用いたアルツハイマー病の研究に見識のあるLawrence S. B. Goldstein教授に共同研究の快諾をいただき実験を進めています。実験で躓くことも多々ありますが、近隣の研究室に出向いてすぐにアドバイスをもらったりして、研究を進めています。自身の実験以外には、学生の研究指導に加え、各々の書類作成、例えば、動物実験プロトコール(IACUC protocol)の作成、ヒト細胞使用許可およびプロトコール(IRB protocol)の作成、助成金およびフェローシップの申請、論文執筆などがあります。ラボメンバーとは日常的に実験内容におけるdiscussionをしていますが、週1回のHevner教授とのdiscussion及び月1回のラボミーティングを通してさらに意見交換をし、研究を進めています。

英語と異文化の理解・交流を広げる

ラボメンバーとの会話やミーティングにおけるdiscussionにはほぼ問題はないのですが、研究以外の話、例えば政治、音楽、世界史等の文化についてはまだ理解できないことが多々あります。意見もせず黙っていると、時には会話に興味が無いと取られることもあるので、常にスマホでわからない単語を検索して、なるべく会話に入るようにしていますが、日本の文化だけでなく、世界文化について知識を持っておくことはコミュニケーションにおいて本当に大切だと日々痛感しています。また留学して始めの2年間は海外の友人がなかなか出来ませんでしたが、UCSDのPDA(Postdoctoral Association)が主催するイベントに参加してからは徐々に海外の友人を増やすことができました。

休日・祝日の過ごし方

サンディエゴは、代表的な地中海性気候の地域で一年中湿気も少なく穏やかな気候です。冬の豪雪地域で有名な富山大学から転居した私にとっては、まるで違う環境で驚きもありましたが、本当に住みやすい場所でとても気に入っています。平日の仕事終わりに大学の近くにあるBreweryで友人と集まってHappy Hourを楽しんだり(写真3)、季節のイベント、独立記念日(写真4)、ハロウィン(写真5)、クリスマスパーティー(写真6)に参加したりしました。また、仲良くしている友人のグループは国際色豊かで、その友人達に誘われてサンディエゴで開催されている様々な国のイベント、インドのホーリー祭(写真7)、Polish Festival, Cinco de mayo Festival等に参加しました。海岸が近くにあり、友人達とBeach Volleyballをすることもあります(写真8)。青空の下で心地よい風が吹く中、温まった砂浜を楽しめるのはカリフォルニアならではで、ハイキング(写真9)、バーベキュー、キャンプファイヤーなども楽しめます。

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写真2 Hevner lab member

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写真3 Trivia Night @Rock Bottom

筆者:右から二番目

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写真4 July 4th (Independence day)

@La Jolla Shores

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写真5 Halloween

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写真6 Christmas party@Friend’s house

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写真7 Color Holi @ Mira mesa

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写真8 Beach Volleyball@Mission Beach

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写真9 Hiking@Laguna Beach

これから留学を検討している、または海外留学に憧れを持っている皆様へ

私は2016年の4月に渡米し、今年で5年経ちました。サンディエゴはとても住みやすく、気候も最高で、まだここに住みたい、と思える都市です。研究機器や技術だけを見ると、日本における研究は海外に劣らず、海外留学をせずとも最先端の研究を行えると思いますが、海外で研究することで、色んな視点からのアプローチができるようになるのもまた事実だと思います。近年若手研究者が海外留学を躊躇する理由の一つに言語の問題があると思います。私は決して英語が得意な方ではなかったし、話すことも得意ではないです。しかし、渡米して分かったのは文法の正しい英語を話すより、自分の意見を述べることが重要だということです。また、改めて、共同研究により異なった視点で研究を進めることの重要さにも気づきました。共同研究に至るまでには、自然と他のラボがどのような研究をしているかを知る必要がありますが、その機会を増やすためにも、日頃から大学や研究機関が開催しているセミナー等に積極的に参加することをお勧めします。特に国際学会は海外留学への切符を手にするチャンスが大いにある場所だと思います。

ご自身の貯金で海外留学される先生方も多くいらっしゃると思いますが、海外留学において経済面の心配をしている方もおられると思います。私は大学卒業後すぐに渡米したので貯金もなく、採用していただいたフェローシップなしには渡米はあり得ませんでした。フェローシップを獲得したという自信にもなるし、それがきっかけで海外ラボへの正式なオファーを得ることにもつながると思います。

海外留学を通して、異文化に触れあい、人々に出会うことは、これからの国際社会において研究を進める上で大変役に立つと思います。海外留学を検討されている先生方、また海外留学に憧れを持っている学生の方々には、是非一歩踏み出して行動し、海外留学への切符を手にしてほしいと思います。

最後に

この場をお借りして、留学先の紹介をさせていただく機会をいただきました、滋賀医科大学 等誠司教授、及び自治医科大学 山崎礼二助教に心より感謝申し上げます。また、留学する際に大変お世話になりました、大学院指導教官の富山大学和漢医薬学総合研究所 東田千尋教授、福岡第一薬科大学 久保山友晴准教授、海外留学への挑戦を鼓舞していただきました、国立長寿医療研究センタージェロサイエンス研究センター統合生理学研究部 佐藤亜希子先生、アメリカ留学時の前所属先、UCSD, Department of Anesthesiology, Martin Marsala教授、現所属先のUCSD, Department of Pathology, Robert Hevner教授に心より御礼申し上げます。海外留学を支援してくださった上原記念生命科学財団に深く感謝申しあげます。留学先で出会った友人、日本から支えてくれた家族に心より感謝致します。

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