ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 61(1): 39-46 (2022)
doi:10.11481/topics172

海外留学先から海外留学先から

コロナ禍でのアメリカ・New Havenでの留学生活

Department of Cellular & Molecular Physiology, Yale University

発行日:2022年6月30日Published: June 30, 2022
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はじめに

私は、現在アメリカのコネチカット州、New HavenにあるYale UniversityのSlav Bagriantsev博士の研究室に留学しています。新型コロナのパンデミック中の2020年9月に渡米し、現在約1年7カ月が経ちました(2022年4月時点)。本稿では、コロナ禍でのYaleでの私の留学生活について振り返りながら、留学するまでの経緯やNew Havenでの暮らしなどについてお伝えしようと思います。また、本稿が将来、海外留学を目指している方や希望している方の参考になれば、幸いです。

留学するまでの経緯

私は修士課程に進学後、将来的にアカデミアで基礎研究を続けていきたいという思いが強くなり、博士課程への進学を決意しました。しかし、当時の私は将来の進路を具体的に思い描いていませんでした(今思えば、この時からしっかりと将来について考えて、短期留学するなど積極的に動くべきだったと後悔しています)。博士課程2年になった時に、当時の指導教官であった齊藤修教授(長浜バイオ大学)に博士課程修了後の進路について相談をしました。その時、齊藤教授から進路の選択肢として「海外留学を検討してみてはどうか?」と打診されました。当時の私は、海外に一度も行ったことがありませんでしたが、世界最先端の研究環境で一度研究をしてみたいという願望が高まり、将来的に1度は海外留学してみたいと思うようになりました。しかし、当時の私は英語でスムーズに会話できませんでした。また、1人で海外生活していける自信が持てなかったので、博士課程修了後すぐに“海外留学しない”という選択を選びました。そして、博士終了後は国内でポスドクとして働こうと思い、ポスドクを募集している研究室を探しました。博士修了してから10カ月後に、当時群馬大学医学部の分子細胞生物学研究室の柴崎貢志先生(現在:長崎県立大学教授)のもとで博士研究員として研究を開始しました。柴崎先生のもとでは、マウスの取り扱い方や神経細胞の初代培養など、新たな技術を学ぶことができました。ポスドクとして働き始めて1年が経過した時に、柴崎先生から「将来、アカデミアで研究者を続けるならば、一度は海外留学をした方がいい」というアドバイスをもらいました。このアドバイスを受けて、「海外留学するチャンスは今が最後かもしれない!」と思い、本格的に留学先を探し始めました。まずは、イオンチャネルの研究を行っている研究室や学会のHPに掲載されている募集を探して、数件メールを送りました。しかし、なかなか先方から返信が返ってこなかったので、留学先を探すのはとても難航しました。この時期は、学会や研究会で知り合いの先生方にも海外留学について相談していました。そんなある日、海外留学について相談していた先生の1人である、生理学研究所の齋藤茂先生からYale UniversityのBagriantsev博士がポスドクを探していると連絡をいただきました。私は、2016年に沖縄で開かれた国際動物学会のシンポジウムでBagriantsev博士の発表を聞いたことがありました。すぐに、彼の研究室から出ている論文を読み、彼の研究室で研究してみたいという気持ちが湧いてきて、Bagriantsev博士にメールを送りました。何度かメールをやり取りした後に、Skypeで面接することになりました。私自身、Skypeでの面接が初めてだったこともあり、とても緊張しました。1度目の面接では、自己紹介やお互いに質問を行い、1時間程度話をして終わりました。私の拙い英語でもしっかりと話を聞いてくれるBagriantsev博士の姿に、とても良い印象を感じました。2度目の面接では、自分の研究について発表し、質疑応答を行いました。自分なりに発表準備をしっかりと行いましたが、質疑応答時に英語の聞き取りが十分にできず、正確な返答をすることができませんでした。これでは不採用になるだろうと落ち込んでいた時に、柴崎先生から「実際に彼の研究室に訪問してみてはどうか?」と提案がありました。すぐに、Bagriantsev博士に研究室に訪問したいとメールを送り、2019年10月に約1週間ほど、Bagriantsev博士の研究室に訪問しました。彼の研究室には、陰圧や圧入といった機械刺激を行う装置を備えたパッチクランプのセットを持っており、実際に彼の研究室でパッチクランプの実験を行うこともできました。さらに、ラボミーティングでは私の研究についてラボメンバーの前で発表し、Skypeで面接した時よりもしっかりと質疑応答を行うことができました。その他にも、ラボメンバーと一緒にランチに行ったり、Bagriantsev博士夫妻とディナーに行ったり、Yaleのキャンパスを紹介してもらったりと研究室のメンバーやBagriantsev博士夫妻と直接交流する時間を取ることができました。また、訪問した時期が紅葉のきれいな時期だったので、New Havenの自然が豊富な景色に魅了され、ここに絶対留学したいという思いがとても強くなりました。日本に戻ってから数日後、Bagriantsev博士から「採用したい」との連絡があり、正式に彼の研究室に留学することが決まりました。今思えば、柴崎先生からの強い後押しとサポート、そして粘り強さで海外留学を実現することできたと思います。また、彼の研究室を選んだ大きな理由は、彼のとてもやさしい人柄です。私は英語でのコミュニケーションに不安を持っていたので、彼の研究室に訪問した時に相談しました。Bagriantsev博士自身も博士課程に進学する時にアメリカに留学した経歴を持っており、私の拙い英語でも一生懸命に聞いてくれ、「実際に住んで、慣れてくれば少しずつ話せるし、聞き取れるようになるから大丈夫だよ」と言ってくれました。この言葉で、安心して彼の研究室に海外留学することを決めることができました。

新型コロナのパンデミックと渡米直後のトラブル!

当初の予定では、2020年の5月末に渡米し、6月1日から働き始める予定でした。しかし、1月から新型コロナの感染が世界中に広まり始め、3月にはアメリカ大使館でのビザ発給が停止されました。また、3月中旬頃からYaleでも研究室への入構制限が始まり、留学開始は7月に延期になりました。6月になっても大使館でのビザ発給が再開されなかったため、さらに9月に延期することになりました。いつアメリカに行くことができるかわからない状態が続き、本当に海外留学できるのか不安な気持ちでこの数カ月間を過ごしました。7月に入ってすぐにアメリカ大使館でのビザ発給が再開され、8月中旬に無事ビザを取得することができました。その後すぐに、飛行機の予約を取り、急いで渡米準備を行い、9月中旬にアメリカに行くことができました。約12時間のフライトでJFK空港(ニューヨーク)に到着後、New Havenまで2つの大きなスーツケースを持って、電車で2時間かけて移動するのは体力的に無理だと思ったので、シャトルバン(空港から目的地まで送迎してくれる予約制のサービス)を予約していました。税関を通過した後、空港の出口でシャトルバンの迎えを呼ぶための専用の電話機を探していた時に、その場にいた係員の人に「シャトルバンのサービスは新型コロナの影響で停止している」と言われました。警備員の方から、電車またはタクシーでNew Haveまで行くしかないと言われた私は、電車で行ける自信がなかったので、泣く泣くタクシーで向かうことにしました。タクシーでは約1時間でNew Havenに到着することができましたが、アメリカに到着後早々に予想外の大きな出費($300)が発生するとは全く予想していませんでした。数日後、シャトルバンの会社に連絡を取ると、通常通りサービスが行われていたことがわかりました。新型コロナのパンデミックにより現地で情報が錯綜していたようでした。今思えば、このアクシデントはとてもよい経験になりました。

歴史的な景観を持つNew Haven

New Havenは、東海岸のコネチカット州南部に位置しています。街の中心部には“New Haven Green”と呼ばれる公園があり、自然豊かな小さい街です。Amtrakと呼ばれる特急列車に乗れば、ニューヨークまで約1時間40分、ボストンまで約2時間で行くことができます。Yale Universityは、1701年に創立され、全米で3番目に古い歴史を持つ伝統的な大学です。New Havenの街中にYale Universityのキャンパスや寮が点在しており、レンガ造りの歴史的な建物が多く立ち並ぶ、とても美しい街です(写真1)。また、120カ国以上の国から来ている留学生が多数在籍しており、国際性豊かな大学です。New Havenを含むNew England地方は、北海道と同じ緯度に位置しているため、夏は日本よりも涼しく快適に過ごすことができます(写真2, 左端)。秋には美しい紅葉を鑑賞することができますが(写真2, 中央)、冬になると冷え込みが厳しく、風がとても強い日が多いです。1年に何度か、大きなストーム(大寒波)が襲来し、道路などの除雪が追い付かなくなって、家から出られなくなることもあります(写真2, 右端)。街の中心部であるDowntownには、日本、メキシコ、中華料理といったレストランやBarが立ち並び、週末になるとたくさんの人で賑わっています。Yaleにはアジアからの留学生が多数在籍しているので、アジア系食品店がいくつかあります。そこでは、少し値段は高めですが、日本の調味料や乾麺などを手軽に入手することができます。大きいスーパーマーケットは、基本的にNew Havenの郊外にあります。Yaleに在籍する大学院生やポスドクの多くの人が車を所有していますが、留学前から私はアメリカで車を運転するつもりがありませんでした。月に何度か車を所有するラボメンバーにスーパーに連れて行ってもらったり、デリバリーサービスを利用して、食料品を購入しているため不便を感じていません。New Havenは、アメリカでのピザ発祥の地として有名な場所で、ピザ専門店がたくさんあります。また、「East Rock Brewery」というビール醸造所が近くにあり、アメリカに来てからクラフトビールのおいしさに魅了されています。Yaleに来る前にラボメンバーから聞いた話やHP上での情報では、New Havenは治安が悪い場所だと聞いており、渡米前の私はとても不安に感じていました。しかし、近年その状況が改善されつつあり、危険なエリアに行くことや夜遅くに1人で外を出歩くことを避ければ、安全に生活をすることができています。Yaleは朝の7時から深夜1時まで毎日無料のシャトルバスを運行しているため、天気の悪い日や実験で帰宅が遅くなる日はシャトルバスを利用しています。さらに、Art GalleryやPeabody Museum of Natural Historyといった美術館や博物館を所有しており、Yale関係者は無料で利用することができます。また、Facebookに「Yale日本人or日本人関係者」というグループがあり、年に1度の懇親会や卒業や入学シーズンには送迎会や新入生の歓迎会のイベントが開かれ、日本人の知り合いを作ることができました。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 61(1): 39-46 (2022)

写真1 Yale Universityで有名な時計塔Harkness Tower

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写真2 自然豊かなNew Haven(左:夏、中央:秋、右:冬)

新型コロナのパンデミック禍での研究生活

New Havenで住む家については、ラボメンバーから渡米直後は1カ月ほどsublet(一時帰国などで一定期間、家を空ける人の部屋をその間借りること)先に滞在して、その間に現地で直接内覧してアパートを決めた方がいいというアドバイスをもらいました。ちょうど、FacebookのNew HavenのHousingのグループで、短期間のsubletを見つけることができ、北東部の住宅街であるEast Rockというエリアで経営学科の修士課程の学生3人がルームシェアしている家に約1カ月ほど住むことにしました。Bagriantsev博士の研究室は、Downtownの近くに位置していますが、半数以上のラボメンバーがEast Rockに住んでいます。DowntownはEast Rockエリアと比べて、家賃の相場が高く、繫華街なので夜間の騒音が大きいという話を聞いていたので、私はEast Rockエリアの物件を中心に探しました。研究室まで徒歩20分で行ける場所にある、ベッドやチェストなどの家具つきのstudioタイプの部屋(日本ではワンルームに区分される部屋)を借りることができました。アパートに住む住人の半数以上がYale関係者で、徒歩数分以内にアジア系食料品店があるのでとても良い立地のアパートを借りることができました。また、ちょうど日本に帰国される日本人の方々から家具や家電をもらうことができ、すぐに住環境を整えることができました。これから海外留学を予定している方は、現地で直接内覧して、その周辺の環境を自分の目で見て、住む家を決めることをお勧めします。

渡米直後、当時のYaleのガイドラインではPCR検査で2回陰性の結果を受け取るまで、研究室に行くことができませんでした。Yale関係者は無料でPCR検査を受けることができ、渡米してから1週間後に研究室に行くことができました。約1年ぶりにBagriantsev博士やラボメンバーと顔を合わせて会うことができた時は、留学がやっと無事に始めることができた喜びで胸がいっぱいでした。その後、IDカードの発行や保険の手続きといった事務手続きに加えて、実験を行うために必要な一連のトレーニング(動物実験などのトレーニング)や予防接種を受ける必要があり、とても大変でした。また同時に、銀行口座の開設などの生活のセットアップも自分1人で行わなければならず、慣れない英語での会話に四苦八苦しつつ、最初の1カ月間は疲れ果てて、ベッドで寝落ちする日々でした。また、最初の1カ月間は研究室の実験スタイルや実験機器の取り扱い方に慣れるために、マウスの神経細胞を初代培養して、パッチクランプで記録を取るという一連の実験を行うことから始まりました。2カ月目くらいから、自分のメインプロジェクトの実験を開始することができ、とてもうれしかったことを覚えています。

現在、所属しているBagriantsev博士の研究室では、脊椎動物の触覚に関する分子基盤を明らかにすることを目指して、モデル動物(マウス)や非モデル動物(アヒル、エレファントノーズフィッシュ)を用いて、体性感覚神経やマイスナー小体といった機械受容器で触覚情報(機械刺激)を検出、伝達する分子の同定、その特性を明らかにする研究を行っています。また、彼の奥さんであるElena Gracheva博士も同じ学科で別の研究室を主宰しており、冬眠動物のリス(Thirteen-lined ground squirrel)を使って、冬眠中の摂食や飲水を抑制するためのメカニズムなどについて研究を行っています(写真3)。Gracheva博士の研究室で飼育しているリスは、各個体の生理状態(ActiveかTorporなのか)を管理するために、当番制で毎日各個体の体温を測定しており、私も月に1度お手伝いをしています。約300匹のリスを飼育している夏の期間は、すべての個体の温度を測定するのに約3時間かかることもあり、とても大変です。しかし、かわいい仕草をとっているリスや眠っているリスを見ると、その大変さを忘れて、癒されています。

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写真3 Gracheva博士の研究室で研究しているThirteen-lined ground squirrel。かわいい姿にいつも癒されています

Bagriantsev博士の研究室では、3台のパッチクランプの実験セットと1台の二本刺し膜電位固定方法の実験セットを所有しており、電気生理学的実験を行うために十分な研究環境が備わっています。Gracheva博士の研究室には分子細胞生物実験、動物実験を行うための実験機器が揃っているので、基本的な実験はスムーズに行うことができます。また、驚くべきことに、キャンパス内に「Stockroom」と呼ばれる売店があり、平日の朝8時から午後4時の間、ウォークインで汎用性の高い試薬や備品を購入できます。

現在、週に1度のペースでBagriantsev博士とディスカッションを行っており、自分からも積極的に実験のアイディアを出すようにしています。自分のアイディアが採用された時はとてもうれしいです。逆に、不採用になった時はなぜダメだったのかを考えることができています。また、Bagriantsev博士から自分には考えつかないアイディアを提案されることもあり、とても良い経験を積むことができています。Bagriantsev博士はラボミーティングでの発表が終わった時や面白い結果が出たときに、必ず「Good Job!」や「Wonderful!」という言葉を言ってくれます。それによって、常にポジティブな気持ちで研究をすることができています。ラボミーティングはGracheva博士の研究室と共同で行っており、2カ月に1度のペースで進捗報告をしています。Gracheva博士の研究室のメンバーからは違う視点で的確な意見やアドバイスをもらうことができ、研究を進めるうえで非常に助かっています。研究室に入った当初は、ディスカッションのスピードの速さについていけず、発言することができませんでした。しかし、分からないことは積極的に質問したり、ラボミーティング後に直接聞きに行くように心がけています。また、Bagriantsev博士とGracheva博士は、高校生に感覚生理学や研究のおもしろさを伝えるために、毎年7月にNew Havenに住む高校生を対象にアウトリーチ活動を行っています。昨年は残念ながら、Zoom上でのオンラインでの開催になりました(写真4)。視覚、聴覚といった各感覚について、パワーポイントを使った授業パート(どうやって視覚を感じるのか?など)と簡単な実験パート(ミラクルフルーツやJerry beansを使った味覚実験)を通して、高校生にどうやって説明するのかなどを数カ月前からラボメンバーで話し合い、準備しました。また、どうして人間は冷たいという感覚を感じるのかを知ってもらうために、動画を自作しました(https://youtu.be/yewSagKcgCU)。この活動を通して、アウトリーチに興味を持つことができ、日本に帰国後もアウトリーチの活動を続けたいと思いました。このような素晴らしい研究環境で、トレーニングを積めていることは今後の研究者人生において、大きな財産になると感じています。

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写真4 昨年夏にオンラインで行ったアウトリーチ活動の様子(左:感覚について高校生に説明しているスライド、右:Zoomでの集合写真)

朝11時頃から、キャンパスの通り沿いにメキシコ、中華料理といった様々な種類のフードトラック(屋台)が並び、$8ほどでランチを食べることができます(写真5)。私は週に1回フードトラックを利用しており、それ以外の日はお弁当を作って、ラボメンバーと一緒に食べています。中庭にローズガーデンがあり、暖かい時期には屋外でランチを食べることができ、太陽光を浴びる良い時間になっています。私たちの研究室は、イタリア、中国、ブラジル、スペインなどから来ている留学生が多く在籍しているため、自分の国の挨拶や食べ物について話をすることが多いです。最近では、ブラジル出身の大学院生がブラジル料理のレストランにディナーに行くというイベントを開いてくれ、各出身地の料理を堪能する機会がありました。このように、研究室はいつも楽しい雰囲気で過ごすことができています。

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写真5 メディカルキャンパスの通り沿いに立ち並ぶフードトラック。中国、メキシコ、ベトナム、韓国などのフードカートがあり、約8ドルでランチを食べることができます

最近、New Haveでの新型コロナの感染率は低い水準を維持しています。また、Yaleに在籍するほぼ100%の人がワクチンを2回以上接種しており、3月末からYaleの屋内でのマスク着用義務がなくなりました。In personでの研究セミナーや学科内でのイベント(リトリート、ピクニックなど)も少しづつ再開されつつあり、他研究室のポスドクと交流する機会ができてきました。留学1年目の私は、早く研究の成果を出さなくてはいけないという焦りもあり、研究のONとOFFがうまく切り替えることができず、休日や長期休暇の期間も関係なく実験をしていました。しかし、ラボメンバーから「休んだり、リフレッシュする時間を取ることも大切だよ」と言われ、今は少し肩の力を抜いて研究することができるようになってきました。また、ラボメンバーはハッピーアワー(金曜日夜の飲み会)や週末のBreakfastに積極的に誘ってくれ、現在は研究以外のオフの時間も大切にしています(写真6, 写真7)。また、ラボ内でお祝い事があるとシャンパンで乾杯して、みんなでお祝いをする習慣があります(写真8)。最近では、大学院生のReview論文がアクセプトになったり、ポスドクのフェローシップの獲得など嬉しいニュースがたくさん舞い込んできており、私自身の研究のモチベーションも高まっています。

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写真6 海沿いにあるSeafood料理が有名なお店Stowe'sにラボメンバーと一緒に行った時の記念写真

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写真7 New HavenのRestaurant Weekにラボメンバーと一緒にランチを食べに行った時の集合写真(右端:著者)

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写真8 ラボメンバーの論文アクセプトとポスドクのfellowship獲得した時のお祝いパーティでの記念写真(一番左:著者、右から3番目:Bagriantsev博士)

渡米前の私は、英語で会話が十分にできる自信がありませんでした。しかし、実際にアメリカに住んで、英語で話していくうちに英語の聞き取りが徐々にできるようになってきました。ラボメンバーがよく使用するワードや言い回しを覚えて、自分のレパートリーを徐々に増やしました。また、渡米前に応募していたフェローシップの選考の結果、2つの財団からのサポートを受けることができ、現在は研究活動に専念することができています。この1年7カ月を振り返ってみると、新型コロナにより想像していた留学生活とは少し違った形での留学生活となってしまいましたが、とても充実した留学生活を送ることができていると実感しています。まだ、いつ日本に帰国できるか未定ですが、将来的には日本に帰国し、イオンチャネルの研究を通して、日本の生命科学の発展に尽力していきたいです。まずは、現在行っている研究の成果を筆頭著者論文として投稿することを目標に頑張ります。

将来、海外留学を検討されている方へメッセージ

私が初めて海外に行ったのは、2019年8月にカナダ・モントリオールで行われた国際神経化学会に参加した時でした。私の海外での経験は極端に少ないので、渡米直後たくさん苦労しました(チップの払い方など全くわかりませんでした)。現在、所属する研究室の留学生の話を聞くと、学部生の時に短期間(半年から1年間)留学している人が多いです。短期間の留学は海外での暮らしや文化を体験することができるうえに、海外の知り合いを作ることができます。将来、海外留学を希望している人は、学部生の頃から国際学会への参加や短期間の留学などで積極的に海外へ行くことをお勧めします。また、アメリカでは大学院生からポスドクになるときに研究分野を変えている人が多いように思います。私の場合、一貫して「イオンチャネル」を主軸として研究を行ってきましたが、分子細胞生物学、神経科学、生理学といったように研究分野を変えてきました。現在の私は、これまでに取得した技術(経験)をベースに新しい技術を取り込んで研究することができています。研究分野や研究室を変えることは、今後の自身の研究にプラスに働くことが多いと思います。また、私は日本神経化学会(若手育成セミナー)に参加し、多くの学生さんやポスドク、先生方と交流する機会を持つことができ、知り合いが増えました。確かに、海外留学は楽しいことばかりではなく、異国という地に1人または家族で渡り、慣れないことばかりで最初は苦労することもあります。しかし、研究者として人間として大きく成長する良い機会になります。この経験は今後の研究者人生に大きな糧になると思いますので、みなさんも思い切って挑戦してみてください。

BagriantsevラボとGrachevaラボでは、現在ポスドクを募集しています(研究室のHPから私たちの研究室から出た論文を見ることができます;https://campuspress.yale.edu/squirrel/)。もし、私たちの研究に興味を持った方がいれば、応募してみてください。

おわりに

最後になりますが、留学先を紹介していただいた生理学研究所の齋藤茂先生、留学する際に多大なサポートと後押しをしていただいた長崎県立大学の柴崎貢志先生、群馬大学の石崎泰樹学長をはじめ、これまでお世話になった諸先生方に心より感謝申し上げます。そして、留学先として受け入れてくださったBagriantsev博士とGracheva博士、並びにラボメンバーのみんなに心から感謝しています。最後に、本稿を執筆する機会を与えて下さいました滋賀医科大学の等誠司先生、自治医科大学の山崎礼二先生、海外留学を支援して下さったアステラス病態代謝研究会並びに上原記念生命科学財団にこの場をお借りして深く感謝申し上げます。そして、私の留学を応援してくれている家族に深く感謝申し上げます。

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