ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 61(2): 116-117 (2022)
doi:10.11481/topics187

若手研究者育成セミナー参加レポート若手研究者育成セミナー参加レポート

若手育成セミナーに参加して

慶應義塾大学医学部4年 先端研脳科学

発行日:2022年12月30日Published: December 30, 2022
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医師と研究者は両立しうるキャリアなのか?基礎研究に対する憧れと、医学への興味の二つが大きな動機となって今まで過ごしていた自分にとって、これから先で一番現実的な選択肢は何なのだろうか?

ふとこれらの疑問が頭をよぎる瞬間は、最近増えた気がしている。そんな中でも、基礎研究に楽しさと厳しさを感じ、同時並行で日々の雑務を淡々とこなしていくうちに、ただ学年だけが上がって行った。このあたりで、一度立ち止まってみてもいいのではないか?先を行く人は、過去を振り返って今、何を思うのだろうか?自分と似たキャリアを目標とする同世代は、何を思うのだろうか?そう考えることはあっても、自分の周りにあるロールモデルは、やはり自分の周りにあるものに過ぎず、自分の将来を冷静に客観視するには、偏りが大きいと感じていた。

若手育成セミナーは、自分が普段考えていることを共有し、偉大な先駆者の方々からのフィードバックを貰える数少ない機会のひとつであると思う。会話の多くはそれほど堅苦しいものではなく、それほど重要とも思えない、他愛もない話である。時に話題は、自分の興味、キャリアの究極の目標、研究への情熱、進路への漠然とした不安などに変わる。研究で行き詰まった時、大発見の瞬間、先輩は何を考えたのか、雑談の節々にヒントが隠れている。論文だけからは感じ取れない、適切な言葉かはわからないが、「生々しい」体験談を聞くことができる面で、このセミナーは自分にとって参加する度に新鮮である。

今夏のセミナーでは、貴重な出会いに恵まれた。私は6月29日の北村貴史、中島欽一両先生によるグループセミナー、6月30日は北村先生による全体セミナーに参加させていただいた。北村先生からは利根川進研究室での体験談を始め、ご自身の研究成果の一つである海馬記憶痕跡細胞発見の背景にあったお話を聞かせていただいた。トークの中には、北村先生の目を通して見た利根川先生が、プロジェクトを遂行するにあたって何を考えていたのかという貴重なヒントの数々が随所に散りばめられていた。学部生時代からのご自身の足跡を辿ってお話になった、アメリカでPIになるために必要な心構え、スキル、考え方の習慣は、これから自分が研究を遂行していくために参考になるお話であった。より具体的には、Winning strategyのあるprojectを進めよ、General interestを見つけよ、といった利根川先生からインスパイアされた力強いアイデアの数々にとどまらず、Availableなtoolに縛られるな、Role modelを見つけよ、自分でprojectを立ち上げそれをexamineせよ、というような研究者として確実に成長を重ねるために必要な行動の起こし方を、非常に示唆に富んだご講演でお話しいただいた。中島先生は、ご自身の研究内容の変遷について、元々研究されていたサイトカインシグナルが、神経幹細胞の分化に対してどのような影響を持っているのかという興味の発端から、ご自身の研究における苦労話まで、長いキャリアの各ポイントでどのようにして興味が移っていったのかシェアしていただいた。

現地開催となった今回のセミナーで改めて実感したが、このような偉大な神経科学者の先輩たちと、じっくりとお話しすることができるのは、この若手育成セミナーにユニークな特徴である。研究者として生き残るとはどういうことなのか、朧げながら理解し始めた自分に、より現実味を帯びて、この道を歩んで行こうという覚悟があるのかという問いが投げかけられたように感じた。心強いのは、この先長い付き合いになるような、志同じくする同期がいるということだ。セミナーの場では、同世代が何を考え、どのようなビジョンを持って研究に励んでいるのか、互いに話す機会が設けられている。医師として臨床に携わりながら基礎研究を続けてこられた先輩、基礎研究に興味を絞って研究に専念された先輩方から話を聞くうちに、無限のやり方でキャリアの切り開き方があるということを再認識した。彼らともこれから共に、切磋琢磨していけるような関係であり続けたいと思う。来年以降、セミナーの講演を聞いた自分が、どのような視点で研究をしているのか楽しみである。

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