ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 62(1): 3-4 (2023)
doi:10.11481/topics189

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島根大学医学部解剖学講座(発生生物学)

発行日:2023年6月30日Published: June 30, 2023
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2022年4月1日付で、島根大学医学部解剖学講座 発生生物学の教授に就任しました、藤田 幸(ふじた ゆき)と申します。何卒宜しくお願い申し上げます。この度、執筆の機会を与えていただきましたこと、出版・広報委員会委員長 澤本和延 先生、委員の先生方をはじめ、関係の先生方に御礼申し上げます。

島根大学医学部解剖学講座発生生物学は、1976年4月、前進の島根医科大学創立時に、「解剖学講座第一教室」として創立されました。初代 中村和成 教授(1976年~1981年)、第二代 田中 修 教授(1982年~1994年)、第三代 大谷 浩 教授(1995年10月~2021年3月)を経て、第四代教授として藤田が着任しました。この間、平成15年4月に、解剖学講座 発生生物学に改称されています。私は、平成18年に星薬科大学を卒業後、千葉大学大学院医学薬学府に入学し、研究の道に進むことになりました。修士課程入学の当初から、当時、千葉大学の山下俊英教授(千葉大学大学院医学研究院 神経生物学)との共同研究の機会をいただき、なぜ神経は再生しにくいのか、という課題をメインに、研究を開始しました。その後、大阪大学に異動された山下俊英教授(大阪大学大学院医学系研究科 分子神経科学)のもとで、引き続き研究を行わせていただけることとなり、博士の学位取得後、令和三年まで大阪大学で研究に取り組みました。その後、アメリカフィラデルフィアにあるペンシルベニア大学に留学し、Hongjun Song教授(Perelman School of Medicine at the University of Pennsylvania)のもとで、脳の発生とその制御が破綻した際に生じる病態の研究に取り組みました。

島根大学着任後は、教育に関しては、組織学、解剖学を担当しています。島根大学では、第一解剖学(発生生物学)、第二解剖学(神経科学)の二つの講座が解剖学、組織学教育を担当しています。担当講義や実習の準備、その他経験したことのない業務が多く、瞬く間に1年が経過していました。

研究に関しては、中枢神経系の形成と修復のメカニズム解明をテーマに研究を進めています。発生期、秩序正しく必要な遺伝子の発現が変動し、多彩な生理機能の基盤となる脳や脊髄などの中枢神経回路が形成されます。一方で、これらの中枢神経回路は疾患や損傷などによって容易に傷ついてしまいます。大学院生より、中枢神経損傷後、再生を妨げるシグナルの解明に取り組みました。これらの研究について、日本神経化学会大会で多くの発表や議論の機会をいただきました。研究を通して、1種類の因子のみでなく、複数の因子が、神経回路の形成や修復を制御しており、その全体像を知りたいと感じるようになりました。そこで、現在では、包括的に遺伝子発現を調節する仕組みに着目しています。

次世代シーケンサーを用いた解析技術の革新的進歩や普及により、クロマチン構造もタンパク質と同様に階層的な高次構造をとり、転写を制御することがわかってきました。ヒストン修飾やDNAメチル化など、直鎖状のDNAに対するエピジェネティック修飾とともに、クロマチンループ構造やTADs、A/B compartmentなどのクロマチン高次構造が遺伝子発現を制御することが明らかになってきました。このような立体的なクロマチン構造と細胞機能の関連や、クロマチン高次構造の破綻と、神経疾患や損傷との関連については、まだまだ未解明な部分が多く残されています。また、90%以上の疾患関連SNPsがタンパク質をコードする領域以外のゲノム上に存在すること、転写産物以外の遺伝子発現制御機構が病態形成の鍵となることを示唆しています。中枢神経回路の形成や修復の過程におけるクロマチンの立体的な構造変化の機能を解明し、それを制御する手法を確立することが、今後の研究目標です。また、大学院生や学部学生の研究教育にも力を入れていきたいと考えています。まだ駆け出しの研究室ではございますが、近い将来、当教室の学生と共に日本神経化学会大会での発表を目指しています。現在、一緒に研究をすすめていただける助教や大学院生を募集していますので、興味を持っていただけましたら藤田までご連絡をお願い申し上げます(yuki.fujita@med.shimane-u.ac.jp)。

最後に、現在に至るまで私を導いてくださった先生方、先輩方に深くお礼申し上げます。これまでに引き続き、研究に力を入れて参りますので、日本神経化学会の先生方には今後ともご指導ご鞭撻を賜りますよう、何卒宜しくお願い申し上げます。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 62(1): 3-4 (2023)

研究室メンバーの写真(右から二人目が筆者)

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