日本神経化学会奨励賞受賞に寄せて
大阪大学 大学院 連合小児発達学研究科 分子生物遺伝学研究領域
© 2023 日本神経化学会© 2023 The Japanese Society for Neurochemistry
この度は日本神経化学会奨励賞を賜ることとなり、誠に光栄に存じます。今回の受賞につながる一連の研究につきましては昨年6 月の「輝け次代の担い手たち」欄で紹介をさせていただきましたので、こちらの欄では私のこれまでの日本神経化学会での経験について、書かせていただくこととなりました。特に学会に参加されて日の浅い学生さんや若手ポスドクの方の参考に少しでもなれば幸いです。
日本神経化学会は私が人生で初めて参加した学会です。研究活動を開始してまだ1年ほど、恥ずかしながら発表できるほどのデータもまだ出ていなかった学部4年生の頃に、「学会というものがどういうものか見てきなさい」とメンターの和田圭司先生(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)に勧めていただき参加してきたのが2010年の神戸大会、そして併せて開催された第3回神経化学の若手研究者育成セミナー(若手育成セミナー)でした。この参加をきっかけに若手育成セミナーにはその後も継続して参加させていただくようになりましたが、これがその後の自分にとって大きな糧となったのは間違いありません。若手育成セミナーでは、学生や若手研究者にはなかなか話しかけるのも気が引けてしまうような先生方と膝を交えてお話しさせていただける機会を、参加するだけで用意していただけるわけです。これは経験の浅い若手にとっては大きなアドバンテージになります。また、合宿形式のセミナーでは全国、時に海外からも集まってきた同世代や自分より少し上の世代の受講生たちとの交流も必然的に濃くなります。バックグラウンドも研究内容も異なる仲間たちの話を聞いたり、少し上の先輩たちが今、何に悩んでいるのかを見聞きするだけでも視野が広がりますし、少し先のキャリアビジョンを想い描く助けにもなります。何より、ここで知り合えた友人たちは、一生の宝となるはずです。
かくして「学会は楽しい」といういささかおめでたい第一印象と、「いつかは自分も大会のあの大きな壇上で喋ってみたい」という模糊とした憧れを手土産に、私の初めての学会参加は幕を閉じた訳ですが、この目標は三年後の京都で開かれたNeuro2013で叶うことになります。筆頭著者として初めての論文が掲載に漕ぎ着け、その内容をシンポジウムのセッションで話す機会に恵まれたのです。この時は本当に緊張しました。それまでに幾度か口頭で発表をする機会は得ていましたが、如何せん会場が大きい。場の雰囲気に飲まれぬよう、必死で話をしたのをよく覚えています。なお、この年大原の山荘で開かれた若手育成セミナーにて、明け方になるまで畳の上で車座になってお話をさせていただいた味岡逸樹先生と山岸覚先生には現在、それぞれ国際対応委員会と出版・広報委員会にてお世話になっています。若手育成セミナーを受講している学生の時点では想像もしていなかったような形で学会に関わることができるようになってゆくのも、ひとつの学会に長く所属させていただくことの醍醐味かもしれません。そのような意味において、2016年に世話人副代表という形で若手育成セミナーの企画・運営に関わらせていただいたこと、翌2017年の第1 回「若手育成セミナー出身者による次世代シンポジウム」の提案・開催に関わらせていただけたことは、自分自身にとって大きな経験となりました。これまで「参加者」として楽しませていただいてきた学会に、ひとりの「ホスト」として携わるのには、たとえ末端の者としてであってもそれまでとは異なる緊張感も伴いますし、見ることができる景色も少し違うように思えました。また、日本神経化学会(JSN)は、姉妹学会のアジア太平洋神経化学会(APSN)や国際神経化学会(ISN)への日本からの入り口にもなっています。私自身も2018年のマカオ大会でInvited Young Investigatorとして口演をする機会をいただけたほか、昨年のハワイ大会にも参加してきました。また、今年はシンガポールでのAPSN、ポルトガルでのISN それぞれで口演する機会をいただくことができました。このようにJSNでの活動をきっかけに姉妹学会を通じて海外での活動につなげてゆけるのも、神経化学会の大きなメリットかもしれません。特に学生の方や若いポスドクの方には、トラベルアワードによる旅費のサポートやISN-APSN 側のトラベルアワード応募に向けた申請サポートも実施されています。関心のある読者の方は是非チェックをされてみてはいかがでしょうか。
以上のように、日本神経化学会は我々のような若手や学生にも、多くの経験の機会を与えていただける学会です。私も本稿を執筆していて自分自身がまさに日本神経化学会、そして若手育成セミナーの申し子なのだな、と改めて痛感してしまいました。近年では「若手道場」の企画など、新たな育成のプログラムも設けられています。もし本稿を読んでくださっている学生や若手ポスドクの方がいらっしゃいましたら是非、このような機会を活用していっていただけたらと思います。また、これまで私共を育ててきてくださいました先生方には、若手育成セミナー等の場にてこれまでと同じように学生さん達や若手達に接していただけたら、こんな嬉しいことはありません。私自身も努力を続け、これから少しでも学会に貢献し、恩返しをしてゆけたら幸せだと思っております。
最後に今回の受賞につながる研究をさせていただき、これまで多大なるご指導とご鞭撻を賜りました国立精神・神経医療研究センター 神経研究所の和田圭司先生、株田智弘先生、多くの共同研究者の先生方にこの場をお借りして心より感謝申し上げます。また、この度このように光栄な場での執筆の機会を与えてくださいました日本神経化学会 出版・広報委員会の等誠司前委員長、委員の先生方ならびに編集部の皆様に深く御礼申し上げます。
ISN-APSN Meeting 2022, Honolulu会場のフリースペースにて。本来、2021年に京都での開催が予定されていた大会でしたが、コロナの影響で1年開催が遅れ、ハワイでの開催となりました。いつか改めて日本での開催が実現することを願っています。
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