ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 63(1): 15-16 (2024)
doi:10.11481/topics211

研究室紹介研究室紹介

九州大学生体防御医学研究所 アレルギー防御学分野

発行日:2024年6月30日Published: June 30, 2024
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2020年2月より九州大学生体防御医学研究所アレルギー防御学分野の独立准教授に就任いたしました伊藤美菜子と申します。日本神経化学会の機関紙で研究室紹介の機会をいただき、感謝申し上げます。私のこれまでの研究歴と現在の研究室の紹介をさせていただきます。

私の研究のバックグラウンドは神経系ではなく、免疫学を中心に研究を行ってきました。2007年に九州大学医学部生命科学科に入学し、卒業研究から修士課程まで、九州大学ウイルス学分野の柳雄介教授にご指導を賜り、脳炎ウイルス感染によるインフラマソームの活性化制御機構について研究しました。その後、脳神経系と免疫の関係に興味があったため、博士課程より東京に移り、慶應義塾大学医学部微生物学免疫学教室の吉村昭彦教授(現・東京理科大学教授)のご指導の下、虚血による脳傷害後の免疫応答機構の解明に着手しました。七田崇先生(現・東京医科歯科大学教授)・森田林平先生(現・日本医科大学教授)にご指導いただき、NLRP3インフラマソーム特異的に活性化を制御する新規の因子としてBruton’s tyrosine kinase(BTK)を同定し、このBTK阻害により脳梗塞後炎症による脳梗塞領域の拡大抑制を発見し、博士課程を修了しました。そのまま吉村先生の研究室でポスドク・講師として働かせていただき、脳損傷後の獲得免疫系の意義について研究を展開してきました。脳梗塞後の慢性期には一見炎症は収まっているように見えるため、急性の組織損傷である脳梗塞では獲得免疫応答は関与しないのではと考えられてきました。しかし、脳梗塞発症後2週間以上経過したマウスの脳内には急性期よりもはるかに多くのT細胞が浸潤しており、特に制御性T細胞が大量に蓄積することを発見しました。脳内制御性T細胞の特徴や意義を解明するとともに、神経修復に関与する分子機構を明らかにしました。

7年弱の東京生活で非常にたくさんのことを学ばせていただき、その後、九州大学の病院キャンパスにある生体防御医学研究所において、テニュアトラック准教授の独立ポストをいただきました。共通機器や設備が充実しており、周りの研究者の研究レベルが高く、研究環境は非常に良いです。現在も引き続き、脳梗塞マウスモデルを中心に、多発性硬化症・アルツハイマー病・自閉スペクトラム症などの様々な中枢神経系疾患のマウスモデルを用いて病態の発症・収束・組織修復における免疫細胞の意義を解明することを目指しています。特に最近では、一細胞解析を用いて、脳内や脳周囲の免疫細胞を網羅的に見ることによって、疾患特異的な免疫細胞の動態や表現型を明らかにするような研究に力を入れています。また、免疫細胞とグリアや神経細胞との相互作用などにも興味をもっており、今後は空間情報を含めた解析を進めていきたいと考えております。

免疫学的な解析を得意としておりますが、神経化学的な解析については私自身としても研究室としても未熟です。日本神経化学会の皆様におかれましては、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 63(1): 15-16 (2024)

著者は下段右から2番目

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