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2022年4月に同志社大学大学院脳科学研究科に教授として着任いたしました。日本神経化学会は、大学院生として基礎研究を始めて最初に入った学会で、会員歴は20年を超えました。歴史ある「神経化学」誌で研究室を紹介する機会を頂き、誠にありがとうございます。
現在の研究室のご紹介の前に、研究室を持つまでの過程や日本神経化学会との関係についてご説明したいと思います。私は山梨医科大学(現:山梨大学医学部)を卒業し、精神神経科に入局しました。神庭重信教授のもとで、とにかく精神科医としての臨床経験を積みたいと思っていた時に大学院への進学を勧めて頂き、入局4年目に(渋々)大学院に入学しました。大学院では臨床と少し離れたことをしてみようと考え、動物の疾患モデルを使った基礎研究を始めました。当時、成体脳で産生される少数のニューロンの挙動が断片的にわかってきて、その機能が非常に注目されていました。その頃、自身がインターフェロン誘発性うつ病の症例を担当したこともあり、薬剤誘発性うつ病モデル動物におけるニューロン新生の変化について研究することにしました。これが今も続けている「成体脳のニューロン新生」という研究課題との出会いでした。日本神経化学会には大学院入学と同時に入会し、ポスター、口頭、シンポジウムでの発表、座長、委員会など、様々な活動の「初めて」のチャンスを本学会で頂き、研究者として重要な経験を積むことができました。
大学院2年目からは、慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授の研究室で研究させて頂きました。岡野先生は昨年度で同職を定年退官されて新体制でご活躍ですが、岡野研で多くの先生方、先輩、同級生達に恵まれて、楽しく研究に没頭する日々を送ることができました。大学院の後半から、当時岡野研のスタッフであった澤本和延先生のご指導のもと、成体脳内の新生ニューロンの移動に関する研究を始めました。澤本先生が教授として名古屋市立大学に着任されて新設した「神経発達・再生医学分野」に加えて頂き、ポスドク、助教、講師、准教授として15年間、成体脳内を移動する新生ニューロンと周囲のアストロサイトの相互作用や、傷害部への新生ニューロンの移動メカニズムなどを研究しました。澤本研があまりに居心地が良く、また自身に自信がなかったこともあり、独立して研究室を運営したいという気持ちを持てずにいましたが、そんな時に背中を押してくれたのが、日本神経化学会を通して知り合った同世代の研究者達の存在でした。年一度の大会でしか顔を合わせる機会がない方々も多いのですが、専門分野が近く、同じような成熟段階にある研究者達が、独立に向けて主体的に行動していることは、非常に刺激になりました。さらに、2019年に日本神経化学会 優秀賞を頂いたことも大きな励みになり、「いつかPIとして学会に貢献したい」と強く思いました。求職活動は辛く厳しく長い道のりでしたが、2022年4月に同志社大学大学院脳科学研究科に教授として着任しました。
同志社大学は、来年には創立150周年を迎える歴史ある大学です。京都市内にある今出川キャンパスは、京都御所に面した好立地で、重要文化財に指定されている19世紀後半の建造物が立ち並び情緒あふれる素敵なところです。…が、理系学部・研究科は京都府の南に位置する京田辺市の、自然に囲まれた京田辺キャンパスにあります。最寄りの小さな鉄道駅から上り坂を徒歩15分という残念な立地ですが、巨大なキャンパス内に入ると洋館風の外観に統一された教育・研究棟と整備された並木や周囲の丘陵地の緑のコントラストに目を奪われます。キャンパスの奥には、野球場、陸上競技場、サッカー場、ラグビー場、アメフト場、テニスコート、馬場などがあり、朝から晩までスポーツウェアに身を包んだ学生達が闊歩して活気にあふれています。
私が所属する「脳科学研究科」は10年ほど前に新設された研究科で、脳を異なった視点やスケールで研究する8部門からなる修士博士一貫5年制の大学院です。当研究科の大学院生には、入学金・授業料と同等の奨学金が給付されるという手厚い経済的サポートがあります(ご興味をお持ちの方はhttps://brainscience.doshisha.ac.jp/br/をご覧下さい)。一方、2年次まで修了しても修士号を授与することはできない完全な一貫性博士課程なので、必ず博士号を取得するという気合いと覚悟を持った大学院生しか入学しませんし、受け入れる我々にもその緊張感があります。
私の部門名は、他の7部門とのバランスを考えて「神経再生機構」という名称にしましたが、病態や再生に限らず、発生・生理など関連する領域も広く研究対象としています。澤本研で長年新生ニューロンの移動の研究をして来ましたが、独立後に特に力を入れて取り組んでいるのが、傷害組織に移動した新生ニューロンの定着のメカニズムの解明です。着任後はまず研究室スタッフ2名(准教授・助教)を探すところから始まり、日本神経化学会のホームページにも公募情報を掲載させて頂きました。これから展開する研究内容を考えて、敢えて自身とは研究の専門性が異なる研究者を探したところ、幸運なことに着任翌年に、電気生理学のエキスパートである森島美絵子さん、細胞生物学のエキスパートである蘇武佑里子さんを准教授・助教として迎えることができました。現在、彼女達と協力して、傷害環境下で新生ニューロンが分化・成熟して神経回路に編入される過程の解析を進めています。
脳科学研究科は、学部は持たない大学院単独の研究科ですが、研究への参加を希望する理学や理工学系の学部生を研究室に受け入れる「リサーチインターン」制度があります。リサーチインターンの学部生は研究室エリアのエントランスのカードキーなどが発行されて、大学院生と同じように研究に参加できます。スタッフも大学院生もいなかった着任1年目からリサーチインターンの学生が来てくれたので、実験室のセットアップを頑張ることができました。私とリサーチインターンの学部生数名だけだった開設当初は、名古屋市立大学を転出する直前になんとか購入した共焦点顕微鏡を使ってゆったり実験できていたのですが、着任2年目からスタッフ、大学院生が加わったり、長時間のタイムラプス撮像をするようになったりして、顕微鏡の予約が取れないという嬉しい不満が出るようになり、ついに覚悟を決めてローンを組み(正確には「レンタル」という形式だそうです)、共焦点顕微鏡をもう一台設置しました。大学としては前例のない契約の形式だったようですが、事務職員の方々が検討を重ねて契約を実現して下さいました。大きな研究費を獲得するのが難しい私にもこんな選択肢があったと喜びつつ、借金を負っているようなものなので、「これで実験しまくって論文を書くしかない!」と決意を新たにしています。まだ本稿で現在の研究について熱く語れる段階ではありませんが、非常に興味深いデータが採れ始めていますので、数年後の神経化学会大会で研究成果を発表するのを目指して全員で頑張って参ります。
研究室を主宰する立場になってから2年の間に、様々なことに悩み、迷い、失敗して、改めて自身の未熟さを噛み締め、これまでお世話になった先生方のご苦労が身に染みて感じられました。大学院生時代から18年にわたって研究者・教育者として辛抱強くご指導下さった澤本先生、研究の魅力を教えてくださった岡野先生、神庭先生、多方面からご支援くださった日本神経化学会の諸先生方に深く感謝申し上げます。
2025年に開催される第68回日本神経化学会大会の大会長に就任された澤本和延先生から、大会実行委員長を拝命致しました。大恩ある澤本先生と、これまでお世話になってきた学会に、多少とも貢献できるチャンスだと嬉しく思っております。久しぶりに本学会単独で行うオンサイトの大会ということで、澤本大会長の下、皆様に楽しんで頂ける大会を目指して企画を練っております。皆様奮ってご参加下さいますようお願い申し上げます。
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