ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 58(1): 23-24 (2019)
doi:10.11481/topics99

研究室紹介研究室紹介

国立精神・神経医療研究センター神経研究所 神経薬理研究部

発行日:2019年6月30日Published: June 30, 2019
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国立精神・神経医療研究センターは、都心のベットタウンである小平市に設置された厚生労働省所管の研究センターです。当センターのミッションは精神・神経・筋・発達障害の臨床研究推進で、病院と2つの研究所(神経研究所と精神保健研究所)、そして4つのセンター内センターが連携しながら、基礎研究から臨床研究まで進める仕組みになっています。私が所属する神経研究所は、生物学的な研究を中心として、基礎研究から橋渡し研究をカバーしています。

私は2018年の4月に神経研究所の神経薬理研究部長として、当センターへ参りました。自己紹介をさせていただきますと、私は東北大学の薬学部を卒業し、修士課程まで東北大学大学院薬学研究科生化学教室に在籍しました。東北大学では、平澤典保准教授(現教授)のご指導のもと、気道上皮細胞のバリア機能破綻に関する炎症の研究に携わりました。当時は、就職を希望する場合は修士課程1年次の夏前から就職活動する必要がありましたが、その時点でもう少し研究を続けたいと思い、博士課程への進学を考えました。そして将来の方向性を考え調べ物をしていく中で神経系の研究に興味を持ち、博士課程は東京大学大学院薬学系研究科へ入学し、薬品作用学教室(当時は松木則夫教授)で神経系の研究に従事する機会をいただきました。薬品作用学教室では、池谷裕二准教授(現教授)、小山隆太助教(現准教授)のご指導のもと、海馬の神経回路の発生の分子メカニズムの解明を試みました。海馬の神経回路の発生異常は側頭葉てんかんの発作の悪化に関わるとされています。神経回路と病態との関連について研究をしていく中で、より病態と関連がある、成体での神経回路の研究にシフトしたいと考えるようになりました。ちょうどその頃、神経組織の成長・再生・移植研究会でポスター発表をしていたところ、山下俊英先生(現大阪大学大学院医学系研究科教授)と研究室の方がポスターを見にきてくださいました。その研究会の2か月後に開催された別の学会でも山下先生と遭遇し、アカデミアに進みたいけどポストがないという雑談(失礼!)をしたところ、博士課程修了後に山下研究室で研究に従事する機会をいただきました。

山下研究室では、神経回路の再生の研究を中心に複数の研究が進められておりましたが、私は指定難病である多発性硬化症のモデルマウスを用いた研究を行うことになりました。多発性硬化症では異常な免疫応答の活性化により神経回路が傷害されますが、その免疫応答のメカニズムには不明な点が多くありました。免疫応答は、抗原提示細胞である樹状細胞がT細胞を活性化することに始まりますが、私たちは刺激をうけた抗原提示細胞で発現が高まるRepulsive guidance molecule-Aという分子が、T細胞を活性化させて、神経回路を傷害させることを見出しました。また、このような免疫応答により傷ついた神経回路も、わずかではありますが自然に修復することが知られます。傷ついた神経回路が修復するメカニズムは、病巣で旺盛な血管新生がキーであることがわかり、血管内皮細胞から分泌されるプロスタサイクリンが軸索の再伸長を促すことを報告いたしました。また最近は、血液に含まれるホルモンの働きに興味があり、膵臓が豊富に分泌するFibroblast growth factor 21が血中に豊富に含まれていて、それが脳へ漏れ込むことが髄鞘の修復が促されることもわかってきました。

上記の研究は、共著者の学生の努力、共同研究者の先生方のご支援、そして山下研究室の恵まれた環境のおかげで形になったものでした。これらの研究がひと段落し今後のことを考えていたころ、現職の公募がJREC-INに掲載されていることに気づき、応募したところ、ありがたいことに採用していただきました。

新天地へ異動し、最初は環境や立場の変化に戸惑うことが多く研究どころではない日が続きましたが、1年ほどかけて実験ができる状態になりました。当研究室では、脳と全身の臓器との連関に関する研究を進めており、関連する研究テーマとして神経免疫の分野にも関心をもっています。免疫研究は、室長としてきてくれた田辺章悟さん(元大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任助教)が中心に進めています。近隣の大学の先生方からは研究生を派遣していただいて、この春には13人体制になりました。今後もポスドクや研究生など、一緒に研究する仲間を増やしていきたいと考えておりますので、興味を持ってくださる方がいらしたらいつでもご連絡いただければ嬉しく存じます。

私が神経化学会に入会したのは約10年前ですが、その間に、アカデミアへ進むこととPIになることという、自分の中での2大イベントがありました。思い返すと、学会関係で知り合った先生方からその時々でご助言やご支援をいただいており、人的交流のありがたさを再認識しています。今後はよい研究をするという形で恩返しできればと思っておりますので、引き続きご指導ご鞭撻を賜ることができれば幸甚でございます。最後になりましたが、執筆の機会を与えてくださいました日本神経化学会前広報委員長の澤本和延教授を始め、関係者の皆様にこの場を借りてお礼を申し上げます。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 58(1): 23-24 (2019)

東京都医学総合研究所の七田崇先生(前列左から3人目)の研究室の方々と合同で、研究会とお花見をしました。著者は前列左から4人目

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