ISSN: 0037-3796
日本神経化学会 The Japanese Society for Neurochemistry
Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 64(1): 29-30 (2025)
doi:10.11481/topics233

研究室紹介研究室紹介

浜松医科大学 医学部 神経生理学講座 (兼任)浜松医科大学 光医学総合研究所 脳形態構築学分野

発行日:2025年6月30日Published: June 30, 2025
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2023年4月に浜松医科大学医学部神経生理学講座の教授に就任いたしました、新明洋平(しんみょう ようへい)と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。私は2005年に徳島大学大学院工学研究科で学位を取得した後に熊本大学大学院医学薬学研究部・助教を務め、2014年より金沢大学医薬保健研究域医学系・准教授として研究・教育に従事してまいりました。専門は発生生物学ですが、近年は脳神経系の研究に注力しており、その一環として本年度より日本神経化学会に入会させていただきました。この度、研究室紹介の機会を頂戴しましたので、これまでの研究歴と現在の研究室についてご紹介させていただきます。

私の研究キャリアは、徳島大学の野地澄晴先生の研究室でスタートしました。当時は、分子発生遺伝学研究の全盛期で、発生現象の素過程が次々と遺伝子レベルで解明されていく非常にエキサイティングな時代でした。特に、脳や眼の形成にマスター遺伝子が存在することを知ったときの驚きは、今でも鮮明に覚えています。野地先生の力強いリーダシップのもと、地方から世界に向けてインパクトのある研究成果を発信しようと、日々研究に没頭した経験は私の研究者としての礎になっています。大学院では、コオロギを用いて初期発生システムの進化の分子メカニズムの解明をテーマに取り組みました。研究の大半の時間は、新規のモデル動物であったコオロギにおいて遺伝子機能解析法を確立することに費やしました。ショウジョウバエで既に確立されていたトランスポゾンやRNAiを利用した手法をコオロギに応用しようとしたのですが、予想通りにはいかず大変な試行錯誤が続きました。その過程で、最終的に確立したのがparental RNAi法でした。これは、雌親の体内に標的遺伝子の二本鎖RNAを投与することで、次世代で標的遺伝子を効果的にノックダウンできる手法です。この方法により、数百匹単位でノックダウン個体を簡便に得られるようになり、コオロギでの研究は飛躍的に進展しました。

学位取得後、熊本大学の田中英明先生の研究室にて、神経発生に関する研究に取り組みました。1990年代初頭に、Netrinを始めとする数種類の神経軸索ガイダンス分子が発見されて、神経軸索誘導の基本概念が明らかになりました。しかしその後、長らく新たな神経軸索ガイダンス分子は報告されていませんでした。脳内の複雑な神経回路を考えると、未発見の神経軸索ガイダンス分子が存在するはずだと考え、新規の細胞外分泌因子の探索、そしてニワトリやマウスを用いて候補分子の機能解析を行いました。その結果、脊髄とすべての大脳交連神経の形成に必須な新規の神経軸索ガイダンス分子を同定しました。この分子は脳や脊髄の背側に発現し、脊髄神経軸索に対して反発作用を持つことから、Draxin(Dorsal repulsive axon guidance protein)と命名し、2009年にScience誌に発表しました。この論文は、Science SignalingのEditors’Choice、A-IMBN ResearchのHighlight、Nature Reviews NeuroscienceのResearch Highlightなどで紹介され、Faculty of 1000 Biologyにおいて‘Exceptional’の評価を受けました。この成果を祝して、田中先生がご購入されたばかりの新築マンションで開催してくださった祝賀会は、今なお心に残る大切な思い出です。

金沢大学では河﨑洋志先生の研究室で、新たにフェレットを用いた脳発生の研究を開始しました。ヒトの大脳皮質は著しく発達しており、その表面には脳回脳溝(シワ)が存在します。こうした脳構造の獲得が進化における脳機能発達に重要であったと考えられますが、マウスの大脳にはシワがないためその研究は遅れていました。シワを持つフェレットを新たな脳発生研究のモデル動物として確立するために、フェレット大脳皮質において遺伝子機能解析技術の開発を検討しました。子宮内エレクトロポレーション法を基盤に、CRISPR/Cas9やpiggyBacなどの様々な遺伝子改変技術を組み合わせることで、細胞種選択的かつ時空間的に制御可能な遺伝子機能解析系を構築しました。この技術を用いて大脳皮質のシワ形成機構を解析し、神経細胞とアストロサイトが段階的にシワ形成に関与するというtwo-stepモデルを提唱しました。金沢大学での9年間は、現在の業務に取り組むうえで大変重要な時間であったと感じています。特に河﨑先生からは、研究面にとどまらず、教育、研究室の運営、さらには大学全体の運営に至るまで、多方面にわたり多くのことを学ばせていただきました。

こうしてこれまでを振り返ると、コオロギ、ニワトリ、マウスおよびフェレットといった多様なモデル動物を用いて分子発生学研究を行ってきたことが、私の研究者としての特徴であると感じています。現在の研究では、これらの優位性を最大限に活用するとともに、行動解析、電気生理、生体イメージングなどの多角的な脳機能解析手法を組み合わせることで、脳神経系の発生および進化の分子機構とその生理学的意義の解明を目指しています。さらに、正常な脳の形成や生理機能の破綻によって生じる疾患の病態メカニズムの解明にも取り組んでいます。当講座は、1974年6月に浜松医科大学創立とともに設立されました。初代教授・森田之大先生、第二代教授・福田敦夫先生の後を継ぎ、私が第三代教授として講座を主催しています。現在、助教2名、大学院生4名、学部生7名、実験補助員1名、秘書1名の体制で運営しています(写真)。助教および大学院生を募集していますので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。最後になりましたが、本稿執筆の機会を賜りました出版広報委員会委員長の澤本和延教授、副委員長の山岸覚教授に深謝申し上げます。

Bulletin of Japanese Society for Neurochemistry 64(1): 29-30 (2025)

研究室のメンバーの写真(後列の一番左が筆者)

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